相続が発生して相続税を払うことになりそうだが、その相続税を誰が払うかわからず悩んでおられませんか?
よく、喪主や配偶者の方が代表して払うのではないかと勘違いされる方もいらっしゃいますが、違います。
相続税を負担するのは、「財産を取得した人(相続を受けた人)」です。
しかし、たとえ財産を取得した人であったとしても、
- 不動産しか相続しない私も払うの?
- 払わなかった場合は誰かに迷惑がかかるの?
- 忙しくて支払いに行けない人の分を代わりに払った場合はどうなるの?
など、様々なシチュエーションで相続税の支払いについての疑問があるかと思います。
この記事では、たくさんの相続税のお手伝いをしてきた経験を踏まえ、税理士として相続税を払うときの様々な疑問にお答えします。
最後まで読み終えていただいた時には、「自分は相続税を払わなければならないのか」が明確にご理解いただけると思います。
また、相続税の支払いについてよくあるご質問も解説します。
目次
1.相続税を払うのは財産を譲り受ける人だけ
今お悩みの一番の疑問は「相続税は誰が払うのか」ということだと思います。
相続人が払うであろうことは想像できると思いますが、もっと具体的に「誰が」払うのかについてお伝えします。
1-1.【相続税を払う人】1円でも財産を相続する人
1円でも財産を相続する人は相続税を払う必要があり、その負担額は、相続する金額に応じて決まります。
例えば、相続財産全体のうち4分の1の財産を取得するときは、相続税全体の4分の1を負担することになります。
ここで注意したいのが、「1円でも」というのは現金だけに限定しておらず、何かしらの財産を取得したときは相続税の支払いが発生するということです。
つまり、財産の種類は関係ないということです。
例えば現金の相続がなくても、不動産、車、上場株式といった財産を取得した場合、相続税の支払い対象になります。
相続税の納税に伴い、例えば上場株式のような現金化しやすい財産であれば、売却して納税資金に充てるのもひとつの手段です。
ですが、不動産のように売却しにくいものであれば、そうもいきません。
取得した財産によってはまとまった納税資金が必要になることもありますので、相続する財産の種類もしっかりと検討するようにし、納税資金を確保することも忘れないようにしておきましょう。
また相続税額に関して、配偶者の税額軽減を定めた規定もあります。
相続の際は、こちらも十分に検討するようにしましょう。
≪配偶者優遇の関連リンク≫
※配偶者の税額の軽減(国税庁のホームページ)
※配偶者がいれば税額軽減の特例を活用する
1-2.【相続税を払わない人】相続放棄した人
相続人であっても、以下の人は相続税を払う必要はありません。
- 相続を放棄した人
- 遺産分割協議などで一切の財産を相続しないことが決まった人
相続税は、亡くなった人の財産を譲り受ける際に生じる税金なので、このように財産を1円も譲り受けることがない人には相続税の支払い義務は発生しません。
2.財産総額が「基礎控除」より少ない場合は全員が相続税の支払い不要
相続税には、基礎控除という「税金がかからない一定の範囲」があります。亡くなった人の財産総額がこの範囲内であればそもそも相続税はかかりませんので、まずは相続税がかかるのかを確認しましょう。
この基礎控除は、以下の計算式で計算されます。
法定相続人とは、法律で決められた相続人のことで、次の順番で相続人となることが民法で決められています。
つまり、亡くなった人の財産総額が基礎控除を超えない場合は、相続人の「誰が」「どれくらい」財産を取得しても、いずれの相続人も相続税を払う必要はありません。
そのため相続税の申告の際は、まず基礎控除がいくらなのかを確認するようにしましょう。
また法定相続人の数え方には、法律で定められた細かいルールがあります。
第一順位の直系卑属には養子縁組をした人も含まれますが、法定相続人の数を計算するときには一定の制限がありますので、ご留意ください。
(かなり難しい表現になりますので、ご不明な場合はお気軽にお問い合わせ下さい)
3.相続税の支払いに関する「よくある質問」4選
相続税の支払いについてたくさんご相談をいただく中で、特によくいただくご相談4つをご紹介します。
3-1.財産を取得した人の代わりに他の人が相続税を払うことはできるの?
A.相続税の納税義務者に代わり、他の相続人やそれ以外の人が相続税を払うことは可能です。
例えば、相続人の代表者が全員分を一括して払うこともできます。この場合、相続人それぞれが金融機関に出向くこともなく納付できるため、非常に手軽です。
同様に、忙しい自分に代わって友人に納税してもらうということも可能ではあります。
しかし、相続税を代わりに払ってもらったときは必ず返済しましょう。
返済しなかった場合、その返済していない金額についての贈与があったとみなされてしまい、贈与税を払わなければならなくなる可能性があります。
(例えば200万円の納税を代わりにしてもらい50万円だけ返済した場合、残り150万円の贈与があったとみなされてしまうということです)
このようなことにならないために、相続税を他の人が払う場合には、払ってもらった人に対してしっかりと返済するようにしましょう。
3-2.自分が納税をせずに放置した場合、誰かに迷惑がかかるの?
A.もし、相続人のうちの一人が相続税を払わなかった場合、その人の代わりに他の相続人が相続税を払う義務が生じます。
(相続税は、原則として被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内に払う必要があります)
このとき、代わりに払うことになる金額は、その他の相続人が相続で受けた利益(相続財産-相続税)までが限度になります。
例えば、自分が相続で受けた利益が1,000万円のとき、他の相続人が払わなかった相続税が3,000万円あったとしても、代わりに払う金額は1,000万円までになるということです。
つまり、相続で受けた利益以上の金額は負担することはありません。
なお、相続税を払わなかった人に代わって払った場合は、払わなかった人に対してその金額分を請求することができます。
請求せずに放置してしまった場合には贈与があったとみなされてしまうケースもありますので、忘れないように請求しましょう。
3-3.もし相続税を納付せずに死んでしまったらどうなるの?
A.相続税を払うべき人が払わずに亡くなった場合には、その亡くなった人の相続人が代わりに相続税を納める必要があります。
文字だけではわかりにくいと思いますので、具体的なケースでご説明します。
まず、①自分の夫が亡くなって相続税が発生したが、②相続人の長男が相続税を払わずに亡くなってしまった時、がこのケースです。
イラストで解説します。
このように、本来であれば相続税は、夫の相続人である妻、長男、次男だけが納付することになります。
しかし、長男が相続税を納付する前に亡くなってしまった場合には、長男が払うべきであった相続税分を長男の相続人である
- 長男の妻
- 長男の子
が、そのまま引き継ぐことになります。
また、納税義務を引き継いだあと、長男が払うべきであった相続税を配偶者と子がいくらずつ負担するかについては、話し合い(遺産分割協議)で決めることができ、配偶者が全額を負担するなども可能です。
3-4.生命保険金や死亡退職金を受け取った場合も、相続税は払うの?
A.その生命保険金等を受け取った人が相続税を払うことになります。
しかし、生命保険金等についてはご遺族の今後の生活の保障の性質が強いため、受け取った保険金が法律で定められた非課税枠の金額までであれば相続税がかかりません。
非課税枠の金額は、以下のイラストで計算します。
このように、非課税枠は相続人の「数」で計算しますが、生命保険金等は決して一人だけが受け取るとは限らず、複数の相続人がそれぞれ受け取る場合もあります。
その場合は、それぞれが受け取った金額に応じて非課税枠を分けることになります。
例えば、相続人A・Bの2人が保険金を1,000万円ずつ(計2,000万円)受け取り、仮に非課税枠が1,000万円であった場合、非課税枠は相続人A・Bどちらかが全額の1,000万円分使えるわけではなく、それぞれが500万円ずつ使えることになります。
つまり、生命保険金等の非課税枠については、まず他の相続人がそれぞれいくら受け取っているのかを確認する必要があり、自分一人で受け取った保険金だけで非課税枠内かどうかを判断してはいけないということです。
また、この非課税枠を使えるのは、「相続人」に限られており、相続人以外の人や相続を放棄した人は使用することができませんので、自分が保険金を受け取ったときには「相続人」かどうかもあわせて確認しておきましょう。
(※判断に悩まれたときは税理士に相談してみましょう)
4.まとめ
相続税の支払いが発生するのは、原則、財産を取得した人ということになります。
(ただし、財産総額が基礎控除内であればだれも相続税の支払い義務なし)
万が一相続税の支払いを忘れると、延滞税など追加で税金を払うケースや、それに伴う相続人同士のトラブルに発展するケースもありますので、各相続人が10ヶ月以内にしっかり申告・納税することが大切です。
また、相続税の納税については、原則金銭(お金)と決められていますが、それ以外で納付できる場合もあります。
相続税の納税についてご検討いただく際には、専門家である税理士事務所をご利用いただくことを強くお勧めします。