相続手続きには、必ず戸籍が必要になります。
- 必要な戸籍がよくわからない
- 誰の戸籍をどれだけ取得すればいいのかわからない
- どこ(どの役所)に戸籍を請求すればいいのかわからない
戸籍の請求について、このようなご質問、ご相談を多く受けます。
亡くなった人(被相続人)の手続き内容によっては何部も必要になり、全国の市役所に請求をかける必要がある場合もあります。
そもそもなぜ、相続において戸籍が必要になるのでしょうか。
それは、戸籍とは亡くなられた人の出生から死亡までの家族関係(親族関係)を証明する唯一の公的な書類だからです。
亡くなった人が関係する戸籍を全て取得して初めて「誰が相続をする権利を有するのか」が決定するのです。
この記事では、シチュエーション(相続関係)別に必要な戸籍を解説していきます。
相続は人の死が起点となるため、
- 自分から見て誰が亡くなったときに
- 誰が相続人になるのか(自分が相続人になるのはどういう場面なのか)
という視点で解説し、そしてその際どういった戸籍を取得すればいいのか理解にお役立てください。
また、最後に戸籍に関する用語集を設けました。
5章で解説していますので、あわせてご確認ください。
目次
1.相続手続きに必要な戸籍の範囲
戸籍といっても色々あるため、まず相続において必要になる戸籍の範囲を明確にします。
必要になる戸籍は、基本的に下記の2つです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍
- 相続人の現在戸籍
亡くなった人(被相続人)の戸籍は、生まれて初めて載った戸籍に始まり、戸籍法が改正されて新しくなった戸籍、結婚して新しくできた戸籍など、複数にわたることがほとんどです。
また相続人が多い場合や兄弟相続の場合などでは、必要な戸籍が変わってきます。
戸籍に一部でも漏れがあると、相続手続きができません。
漏れがないためにも、どのようなケースでどのような戸籍が必要になるか、次の章で見ていきましょう。
2.【まるわかり】ケース別で見る必要戸籍
いよいよこの章では、相続人の範囲や必要になる戸籍の種類を見ていきます。
まずは下図をご覧ください。
民法では相続人になる人が定められており、それを法定相続人といいます。
亡くなった人(被相続人)の配偶者(夫や妻)は常に相続人になります。
そして、第一順位から第三順位まであり、前順位がいない場合に後順位の人が相続人になります。
例えば、
- 第一順位である子か孫(直系卑属)がいる場合は、父母(第二順位)は相続人にはなりません。
- 兄弟姉妹や甥姪(第三順位)が相続人になる場合は、子や孫(第一順位)、父母祖父母(第二順位)がいない場合です。
この考え方をもとに、実際親族の死で相続が発生した場合は、だれが相続人になるのかを把握し、相続人の戸籍を収集する必要があります。
相続人の把握は、誰が亡くなったのかがポイントですが、それに付随して家族構成が大きく影響します。
これから解説していくのは、
- あたなたから見て誰が亡くなったときに
- 自分が相続人になるケースはどういうときなのか
という視点です。
それでは早速、ケース別に見ていきましょう。
2-1.親が亡くなった場合の必要戸籍
あなたから見て親が亡くなった場合を考えてみましょう。
仮に父親が亡くなったとして、まず配偶者であるお母様は相続人です。
そして、その子つまりあなた(兄弟姉妹も含む)は第一順位として相続人です。
よって、必要となる戸籍はお母様とその子(あなたを含む兄弟姉妹分)です。
孫も亡くなっている場合は、ひ孫が相続人になります。
このように、相続権が下へ下へと降りていきます。
(これを代襲相続といいます)
子も孫もいない場合に、順位は第二位へと移ります。
2-2.祖父母が亡くなった場合の必要戸籍
ここでは、あなたから見て祖父が亡くなった場合を考えてみましょう。
よって、祖父が亡くなり、孫にあたる自分が相続人になる場合とは、お父様が先に亡くなっている場合です。
お父様がご健在であれば相続人でしたが、先に亡くなっているために、代わりに孫である自分が相続人になります(代襲相続)。
ここでポイントとなるのは、先に亡くなった父親の必要戸籍が出生から死亡までの戸籍であることです。
これは、亡くなった父親の代襲相続人として、その父親の子が何人いるのか(つまり相続人が何人いるのか)を確認するためです。
2-3.子が亡くなった場合の必要戸籍
自分の子が亡くなった場合を考えてみましょう。
よって、自分の子(被相続人)に子や孫がいない場合、自分(子から見た親)が相続人となります。
※自分の子(被相続人)に配偶者がいる場合は、その人は必ず相続人です。
ここで見ていくのは、本来法定相続第一順位となる子や孫がいない場合、つまり第二順位に相続人が移った場合です。
亡くなった人(自分から見て子)の出生から死亡までの戸籍を取得することにより、亡くなった人に子や孫がいないことが証明できます。
そして、相続人である父母(自分と妻)は現在戸籍で存命であることを証明します。
2-4.孫が亡くなった場合の必要戸籍
自分の孫が亡くなった場合に、自分(亡くなった孫から見て祖父母)が相続人になるのはどういう場面でしょうか。
よって、自分(亡くなった孫から見て祖父母)が相続人になるのは、孫に子がなく(孫もなく)、孫のご両親がすでに亡くなっている場合です。
亡くなった子(被相続人)から見て、父方の祖父母と、母方の祖父母ともに相続人になります。(図のケースでは相続人は3人)
※被相続人に配偶者がいれば(かつ健在であれば)、相続人はその配偶者と祖父母(3人)の4人になります。
このように、孫が亡くなり(その両親が先に亡くなっており)、祖父母(つまり自分)が相続人になる場合は、両親の戸籍は死亡の戸籍があれば足ります。
相続人となる祖父母は現在戸籍が必要で、すでに亡くなった祖父母がいる場合は死亡記載の戸籍が必要になります。
コラム
迷いやすい事例として、もし孫から見た両親のうち、片親が存命だった場合どうなるか見ていきましょう。
このように、誰が亡くなったとしても、家族構成かつ存命なのかどうか等で、相続人になる人や必要な戸籍が大きく変わってきます。
2-5.兄弟姉妹が亡くなった場合の必要戸籍
自分の兄弟姉妹が亡くなり、自分が相続人になる場合とはどのような場合でしょうか。
つまり、亡くなった自分の兄弟姉妹の相続人になる場面というのは、亡くなった人(自分の兄弟姉妹)に、子どもや孫、両親や祖父母もいない場合です。(このときの法定順位は第三位です)
また、このような兄弟姉妹が相続人になる場面で、仮に相続人となる兄弟姉妹も亡くなっていた場合はどうなるでしょうか。
先に紹介した家系図で、自分の弟が亡くなり、兄弟姉妹である自分と妹が相続人になる解説をしました。
では、妹(家族あり)も亡くなっていた場合はどうなるのか見ていきましょう。
相続人だった妹が亡くなっていても、その子が相続人となります(代襲相続)。
ですがここでポイントとなるのは、代襲相続の範囲です。
第一順位の子や孫、第二順位の親や祖父母での代襲は上や下に何代も代襲しますが、第三順位の兄弟姉妹の相続においては、「甥や姪まで」の1世代しか代襲しないのが特徴です。
※この場合、妹の配偶者が健在でも相続人にはなりません。(あくまで子が相続人となります)
このケースでの必要戸籍はどうなるのか、下記で見ていきましょう。
【参照】代襲相続についてはこちらも参考にしてください。
兄弟姉妹の代襲相続で相続人になる人・ならない人【イラストで解説】
3.戸籍の取得方法について|窓口か郵送
戸籍は、本籍地を管轄する役所で取得します。
窓口に直接赴く場合は、該当の窓口(「市民課」などが多いです)で請求しましょう。
役所の担当の方に「相続に必要な戸籍を全部ください」と伝えると、その役所にある戸籍を出してもらえることもあるため、一度ご確認ください。また戸籍を取得する際は「戸籍謄本(全部事項証明書)」を取得してください。
(役所以外に、サービスセンター等(出張所)でも取得することができる場合があります。)
※役所にて「謄本ですか?抄本ですか?」と聞かれたら、「謄本をください」と伝えましょう。
(違いについては5章で用語解説しています)
また、戸籍を管轄している役所が遠方にある場合は郵送による請求も可能です。
この二通りについてそれぞれ解説していきます。
3-1.窓口で取得する場合
本籍のある役所の窓口か、市町村によっては出張所やサービスセンターの窓口で発行してもらえます。
本人確認の書類(免許証など)と手数料を準備して窓口に行きましょう。
※兄弟姉妹の戸籍など、ご自身との関係が分かる戸籍など追加で必要になる書類もあるため、事前に役所へ確認しておくとよいでしょう。
3-2.郵送で取得する場合
役所の窓口でも、郵送でも、取得できる戸籍は同じですが、役所の窓口であれば当日に発行してもらえることがほとんどです。
一方郵送の場合は、請求書を送り、役所で発行し、返送となり、戸籍の取得まで1週間程度かかるためご留意ください。
戸籍の郵送請求に必要なものは以下の4つです。
- 交付請求書
一般的に、役所のHP等に置いてあります。本籍地や筆頭者を記入しましょう。 - 手数料
現金の代わりに定額小為替(郵便局等で購入可能)を同封しましょう。 - 返信用封筒
ご自身宛て住所を記載した封筒を同封します。切手も貼っておきましょう。 - 本人確認書類
免許証のコピーなど、請求者の身分証明書のコピーを同封しましょう。
役所によって異なる場合があるため、該当の役所のHP等で一度ご確認ください。
また、役所の窓口であれば担当の方に聞きながら取得していけますが、郵送の場合は思ったようにスムーズに進まない場合もあるかもしれません。
そのようなときは、下記の3つを意識すればスムーズな戸籍の郵送請求ができるでしょう。
- 「〇〇が亡くなり、相続に必要な御庁にあるすべての戸籍を発行してください」とメモを付けましょう
請求用紙等に付せんなどでメモを添えるとよいでしょう。相続に必要な戸籍の取得漏れが少なくなります。 - 定額小為替を多めに同封しましょう
金額が不足すると、追加で定額小為替を送る手間が増えてしまいます。
役所によっては、問い合わせの時点でいくら程度同封すればよいか教えてもらえるため、確認しておきましょう。 - 返信用封筒には「不足分受取人払」と記入しておきましょう
戸籍の枚数が多いと、貼付した返信用の切手代を超えることもあるかもしれません。
よって、あらかじめ返信用封筒にこう記入しておくと、返信されてきた際に追加の切手代を自分で支払うことができます。
4.スムーズに手続きするためのワンポイントアドバイス
これまでお伝えしたように、相続人がわかり、用意する必要のある戸籍の種類を把握したところで、ここでは戸籍の取得の際や戸籍が揃ったときに、相続手続きを少しスムーズに進めるためのポイントを2つお伝えします。
4-1.「法定相続情報制度」を活用して手間を省こう
相続手続き用に取得したたくさんの戸籍を、1枚の証明書(法定相続情報一覧図)にして認証してくれる制度があります。
それが「法定相続情報証明制度」です。全国の登記所(法務局)が対応します。
相続手続きは、一度戸籍を取得できたからといって完了ではありません。
戸籍は相続関係の証明になるため、遺産相続に関する手続きには必ずといっていいほど提出が求められます。
つまり、相続の手続き先の数だけ、同様に戸籍の提出が必要となります。
例えば、銀行などの金融機関での相続手続きでは、戸籍一式が必要になります。
手続をする銀行の数が多ければ、その都度窓口で大量の戸籍の確認が行われます。
そのような煩雑な手続きを解消するために、法務局を通して一枚の「法定相続情報一覧図」を取得しておくととても便利です。
(法務局で認証してもらうために、一度すべての戸籍を取得する必要はあります)
金融機関での口座解約や、不動産の名義変更、相続税の申告で使用できるため、手続きをする窓口が多い方はぜひ利用してください。
詳しくは法務局のHPをご確認ください。
「法定相続情報証明制度」について
4-2.戸籍と一緒に「戸籍の附票」も取得しておこう
戸籍の附票とは、戸籍に付随する書類のことで、その戸籍にいる間の住所の異動を記録された書類です。
本籍地を管轄する役所で取得することができます。
※相続手続きに必要になることは少ないですが、不動産の名義変更の際に住所書類として使用できたり、金融機関での住所確認で使用できたりするため、あわせて取得しておくと便利です。
戸籍を取得する際に一緒に取得できるため、役所で「戸籍の附票も一緒に発行してください」と伝えましょう。
5.戸籍についてよくある質問集
「意外に知っておくと便利かも!」と思う、戸籍についてよくある質問をご紹介します。
5-1.戸籍といっても戸籍謄本や抄本など…用語について教えてください
相続に必要な戸籍を収集する際に、役所で使われる戸籍に関しての基本的な用語を解説していきます。
これらの用語を理解することで、不備なくスムーズに戸籍収集を進められるでしょう。
【本籍(ほんせき)】
戸籍の所在地です。住所と違うことも多く、戸籍の取得の際は気を付けましょう。
本籍の登録は、住んだことのない所や、行ったこともない所でも可能です。
もしご自身の本籍が分からない場合は、住民票に記載されますので取得して確認しましょう。
【筆頭者(ひっとうしゃ)】
戸籍に最初に載っている人のことです。
戸籍の取得の際は、「本籍と筆頭者の名前」を伝えることで発行してもらえます。
インデックスみたいなものと考えていただければわかりやすいと思います。
筆頭者が亡くなっても、筆頭者は変わりません。
【戸籍謄本または戸籍全部事項証明書】
戸籍謄本も戸籍全部事項証明書は、名称が違うだけで同じものです。
基本的にすべての役所でコンピューター化され読みやすくなりました。
結婚や死亡などで戸籍を抜けると「除籍」という表記がされ、抜けられた方は新しい戸籍に異動します。
相続人の現在戸籍を取得する際は、この「全部事項証明書」を取得しましょう。
【戸籍抄本(しょうほん)または戸籍個人事項証明書】
戸籍全部事項証明書はその戸籍にいる全員の記載があるものですが、戸籍抄本(戸籍個人事項証明書)そのうちの一部の人の情報を記載したものです。
こちらもコンピュータ化されたことにより名称が変更されたため、戸籍抄本も戸籍個人事項証明書も同じものです。
【除籍謄本(じょせきとうほん)】
戸籍を抜けることを「除籍」といいます。
また全ての人が抜けて誰もいなくなった戸籍を「除籍謄本(または単に除籍)」といいます。
例えば「結婚(または死亡)で戸籍を抜けた人」にとっては、抜けた戸籍が「除籍」になりますが、「戸籍に残ってる人」にとっては、同じ戸籍でも「現在戸籍」と呼びます。
【改正原戸籍(かいせいはらこせき)】
法律の改正などで古くなった従前の戸籍のことです。(詳しくは5-2へ)
直近の改正は平成6年度で、今まで手書きだった戸籍をコンピューター化することになりました。
つまり現在のコンピューター化されている戸籍以外(それ以前の戸籍すべて)は改正原戸籍になります。
5-2.どうしてこんなにたくさんの戸籍が必要になるの?
現在戸籍であれば直近の戸籍のみで足りますが、大変なのは亡くなった人の出生から死亡までの一連の戸籍収集です。
なぜ一連の戸籍が複数枚にまたがるのか。
それは、戸籍が作成される理由にあります。
身近なイメージとしては結婚したり、あるいは市をまたいで本籍地を変更(転籍)したりすると新しく戸籍が作成されます。
またそれ以外にも、法律(戸籍法)が改正されると戸籍が一新されることがあります。
(※戸籍法の改正すべての影響を受けるのではなく、様式の変更が生じる場合です)
それでは戸籍の様式について、今までにどのくらい法改正の影響を受けているのでしょうか。
- 明治19年式
- 明治31年式
- 大正4年式
- 昭和23年式
- 平成6年式
このたびに、戸籍が一新されています。
つまり、例えば昭和20年生まれの人の出生から死亡までの戸籍をそろえたい場合、転籍や除籍もなく生まれてから戸籍の移動がなかったとしても、
- 生まれた時点の「大正4年式」の戸籍(←改正原戸籍)
- 改製された「昭和23年式」の戸籍(←改正原戸籍)
- 改製された「平成6年式」の戸籍
の3枚が必要になります。
ここに転籍や除籍が加わると、枚数はもっと増えることになります。
こういった背景を理解しておくと、よりスムーズに戸籍収集ができるかもしれません。
6.まとめ
ここまでお読みいただいた通り、相続手続きに必要な戸籍はたくさんあります。
コンピューター化される前の戸籍は手書きの旧字体で記入されており非常に読みづらかったり、判読不明な文字も多くあります。
また転籍が多かったり、養子縁組、兄弟姉妹の相続などになると大量の戸籍が必要になったり(多い方は戸籍が50部以上も必要になる方も…)します。
相続手続きにおいて戸籍の取得は最も基本で、かつ最も重要な作業でもあります。
もし戸籍の取得作業が煩雑、困難なときは、司法書士や行政書士といった専門家に依頼するのも選択肢のひとつです。
当センターでも承りますので、お気軽にご相談ください。
一口に戸籍といっても深いものです。
この記事をご覧になった方にとって、少しでも戸籍の理解が深まると幸甚です。