「遺産分割協議書って、相続手続きに必ず必要なものなの?」
「うちは相続人同士仲がいいし揉めることもないから、遺産分割協議は不要なのでは?」
遺産分割協議や遺産分割協議書について、このような声をよくお聞きします。
遺産分割協議とは、被相続人(亡くなった人)の財産について、相続人(相続をする権利のある人)全員で「誰が」「どの財産を」「どのくらい」もらうのかを話し合うことです。
そして、その話し合った結果を書面にしたものを遺産分割協議書といいます。
遺産分割協議書は、どの相続手続きにおいても必ず必要というわけではなく、
- 遺産分割協議書が必要なケース
- 遺産分割協議書が不要なケース
があるために、多くの人が悩む原因となっています。
そこでこの記事では、ケース別に遺産分割協議書の必要・不要について、また自分で遺産分割協議書を作成する場合流れや注意点までを解説していきます。
この記事を読んでわかること
目次
1.〈おさらい〉そもそも遺産分割協議とは?
先にお伝えしたように遺産分割協議とは、被相続人(亡くなった人)の財産について、相続人全員で
- 誰が
- どの財産を
- どのくらい
もらうのかを話し合うことで、それを書面にしたものが遺産分割協議書です。
(ご存じの方は飛ばしていただき、2章よりお読みください。)
遺産分割協議書を作成するには、主に2つの理由があります。
- 相続の手続き上必要なため
- 他の相続人とのトラブルを回避するため
上記に該当しなければ、遺産分割協議書は必須ではありません。
2章及び3章で詳しく解説しますが、ざっくり表にすると以下のようになります。
遺産分割協議書が | |
必要なケース(2章) | 不要なケース(3章) |
不動産や自動車などの財産がある場合 | 相続人が1人だけの場合 |
相続税の申告が発生する場合 | 遺言書がある場合 |
後々、相続人間でトラブルになりそうな場合 | 遺産を法定相続分どおりに分ける場合 |
遺産分割協議書は、簡単に言うと「被相続人の財産について、こうやって配分することに決めました」という話し合いの結果です。
そのため、当然ながら話し合いをするための情報が必要になり、相続手続きが開始したからといって、すぐ作成に取り掛かれるものではありません。
まずは被相続人の財産を洗い出し、銀行口座の預金額や不動産、車や株式なども含めた全ての遺産について協議をしましょう。
また、相続税申告が必要な場合は、提出期限(10か月)があるため、余裕をもって協議書の作成をする必要があります。
遺産分割協議書は、ご自身で作成することもできますが、当センターのように専門家が代わりに作成し、相続人全員が内容に相違ないことを確認の上署名捺印するケースもあります。
特に相続税申告がある場合は、記載漏れがあったり、遺産分割協議書の内容と相続税申告書の内容に相違があってはいけませんので、専門家へ作成を依頼することをお勧め致します。
(作成のタイミングや流れについては、4章で詳しく解説しています。)
2.遺産分割協議書が必要な3つのケース
まず、遺産分割協議書が必要になるケースを3つご紹介します。
- 相続財産に不動産や自動車などがある
- 相続税の申告がある
- 相続人同士でトラブルになる可能性がある
ただし次章でも解説しますが、
- 相続人が1人だけの場合
- 遺言書がある場合
は、上記3つに該当していても協議書が不要になることもあります。
ここでは「相続人が複数人いる」かつ「遺言書がない」前提で解説していきます。
2-1.相続財産に不動産や自動車などがある場合
相続財産に不動産や自動車などがある場合は、相続手続き上、遺産分割協議書が必要になります。
不動産や自動車は、多くの場合特定の人(相続人)が所有することになるため、遺産分割協議書において
- どの相続人が取得するのか
- 他の相続人の同意を得ている
ということを証明します。
(※法定割合通りに複数の相続人の共有財産として相続することも可能ではありますが、手続きの煩雑さや相続後にトラブルに発展するリスクがあることから、選択されるのはごく稀です。)
不動産、自動車それぞれの相続手続きは以下の通りです。
遺産分割協議書を作成したうえで、対応するようにしましょう。
【不動産の場合】
相続によって不動産の名義変更をすることを相続登記といいます。
(正式には、「相続による所有権移転登記」といいます。)
申請先は、不動産のある地域を管轄する法務局になります。
登記申請書、戸籍や印鑑証明書などの必要書類とともに、遺産分割協議書も提出しましょう。
相続登記の専門家は司法書士になります。
相続登記には専門的な知識も必要になるため、手続きに困ったときは司法書士に相談するとよいでしょう。
※相続登記に必要な書類はこちら
不動産の相続手続きマニュアル|相続登記の流れと9つの必要書類
(相続まごころ代行センターのサイトが開きます)
【自動車の場合】
申請先は、陸運局や軽自動車検査協会になります。
車検証や車庫証明書、戸籍や印鑑証明書などの必要書類とともに、遺産分割協議書も提出しましょう。
自動車の相続手続きは、行政書士の専門となります。
「窓口になかなか行くことができない」「書類の準備が難しい」という場合は、行政書士に相談するとよいでしょう。
2-2.相続税の申告がある場合
相続税の申告でも遺産分割協議書の提出が必要な場合があります。
そもそも相続税は、すべての相続に課せられるものではなく、以下の場合に発生します。
- 被相続人の財産が
不動産や預貯金、株式証券、自動車や負債などを含む被相続人名義の全ての財産
- 一定の金額以上ある場合
〈基礎控除額=3,000万円+法定相続人の数×600万円〉 を超える金額の場合
つまり、相続財産額が基礎控除以内であれば、相続税は発生しません。
※詳しくはこちら
相続税の基礎控除|申告は必要?不要?基礎控除の計算方法
(相続まごころ代行センターのサイトが開きます)
そして、相続税の申告が必要だからといって、すべての申告に遺産分割協議書が必要なわけではありません。
相続税の申告において、遺産分割協議書が必要なケースは次の2つです。
- 法定相続割合”以外”で相続する場合
- 「配偶者の税額の軽減」や「小規模宅地等の特例」を適用する場合
遺産分割協議書は、「相続人全員が遺産分割協議を完了し、実際に取得した財産がわかる書類」の証明として提出します。
2-3.相続人同士でトラブルになりそうな場合
この場合は、手続きの都合上必要なのではなく、相続人同士のトラブルを避けるために作成することになります。
具体例としては、
- 相続人の人数が多い場合
- 日頃から相続人同士の交流がなく疎遠な場合
など、後々にトラブルになる可能性が考えられる場合は、遺産分割協議書を作成しておくことをお勧めします。
もちろん、作成は必須ではありませんが、後になって「財産の配分が違う」などのような「言った/言わない」のトラブルになった例もたくさんあります。
相続人全員で話し合った結果として遺産分割協議書を作成しておくことで、トラブルを防ぐことにもつながります。
3.遺産分割協議書が不要な3つのケース
次に、遺産分割協議書が不要なケースを3つご紹介します。
- 相続人が1人だけ
- 遺言書がある
- 法定相続の割合で相続する(遺産を分割する)
それぞれ詳しく解説します。
3-1.相続人が1人だけの場合
相続人が1人しかいない場合は、他に協議する人もいないため、そもそも遺産分割協議ができません。
他に相続人がいるものの、その人が家庭裁判所で相続放棄をし、最終的に相続するのは自分1人になったときも同様です。
そのため、不動産の名義変更や相続税の申告などの手続きが生じても、遺産分割協議書の提出は不要になります。
3-2.遺言書がある場合
被相続人が生前に遺言書を作成していて、遺言書の内容にそって相続する場合は、遺産分割協議書は不要です。
不動産の名義変更や相続税の申告では、遺産分割協議書の代わりに遺言書を提出しましょう。
ただし、以下の場合は(遺言書があったとしても)相続手続きに遺産分割協議書を求められることがあります。
①遺言書に記載されていない財産がある場合
遺言書に記載されていない財産がある場合は、その財産について別途遺産分割協議をして、遺産分割協議書を作成する必要があります。
(ただし、記載のない財産について、法定相続分どおりの相続でよければ遺産分割協議書は不要です。(3-3章))
②誰が(その財産を)取得するのかが明確にわからない場合
例えば、遺言書に「一番よく介護をしてくれた子どもにあげる」と書いてあった場合、その財産を取得する権利が誰にあるのか、文面からではわからないことがあります。
このような場合は、遺産分割協議書を求められることがあります。
③遺言書が法的に無効な場合
被相続人本人が直筆する「自筆証書遺言」によく見られるケースですが、遺言書として認められる外的要件を満たしていない場合は、いくら内容が遺言書であっても法的に無効になることがあります。
(日付が抜けていたり、署名がなかったり、など)
その場合は遺言書がないことと同じであるため、改めて遺産分割協議書を作成する必要があります。
遺言書がある場合は、「誰が」「どの財産を」「どのくらい」引継ぐことになっているのか、内容をしっかり確認しましょう。
そして、直筆する「自筆証書遺言」は公正証書遺言と比較して不備があることも多いため、どうしても自筆で作成する際は専門家のサポートを受けることをお勧めします。
3-3.法定相続の割合で相続する場合
法定相続割合とは、各相続人が相続する権利の割合のことで、民法で決められています。
その割合通りに相続する場合、特に話し合いをする必要がありませんので、遺産分割協議書は不要になります。
※相続税の申告があっても、不動産があっても、相続人全員が法定相続割合で財産を取得する場合は、遺産分割協議書は不要です。(2-2章)
4.遺産分割協議書を自分で作成するための5つのステップ
ここでは、遺産分割協議書の作成の手順について、5つのステップに分けて解説していきます。
なお実際は、相続関係や相続財産の種類、どういう遺産分割をするかによって内容は変わってきます。
ここでご紹介するのは、あくまで基本的な遺産分割協議書の作成ステップです。
(実際には、行政書士や司法書士など専門家に相談をしたうえで作成することをお勧めします。)
4-1.【STEP 1】相続人を確定させる
遺産分割協議には、相続人全員が参加する必要があります。
(家庭裁判所で相続放棄をした人がいる場合は除きます。)
そのため、相続が発生したらまず、被相続人の戸籍を取得して相続関係を調べていきます。
相続人を確定するために必要な戸籍は、下記のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍
- 相続人の現在戸籍
被相続人の出生から亡くなるまでの戸籍を全て取得することで、被相続人に配偶者がいるか、子どもがいるか等が分かります。
(※詳しくはこちら:【戸籍謄本まるわかり】相続手続きに必要な戸籍をケース別に徹底解説)
自分では家族関係を把握していると思っていても、
- 実は被相続人(亡くなった人)が過去に離婚しており、子どもがいた
- 認知している子どもがいた
などのケースは実際にあります。
(過去のご依頼でも、戸籍収集の時点ではじめて被相続人に前婚歴があったことが判明したというケースがあります。)
遺産分割協議書が必要な手続きの場合、原則、戸籍は必須になります。
(銀行や法務局など各手続き先でも、戸籍から相続人を確定し、遺産分割協議に参加し、かつ同意していることを確認します。)
遺産分割協議書を作成してから、「この人も相続人だった!」と判明した場合は、遺産分割協議をやり直すことになります。
そうならないためにも、まずは必要な戸籍を取得し、相続人を漏れなく確認しましょう。
4-2.【STEP 2】財産目録を作成する
次に財産目録、つまり被相続人名義の遺産をリストアップします。
遺産分割協議をするための、相続財産の一覧表を用意するイメージです。
遺産分割協議書に記載のない遺産があると、その遺産について、再度遺産分割協議をしなければならない可能性もあり、二度手間になってしまいます。
そうならないためにも、遺産分割協議をする対象の財産をしっかり洗い出しましょう。
(何が、いくらあるのか、まで詳細に書いておくとよいでしょう。)
被相続人名義の預貯金であれば、金融機関で残高証明書などを取得して調べることができます。
なるべく漏れのないように、遺産をピックアップしましょう。
4-3.【STEP 3】遺産分割協議を行う
すべての遺産を一覧にまとめ終えると、いよいよ相続人全員で遺産分割協議を行います。
必ずしも顔を合わせて話し合う必要はなく、遺産の配分について、相続人全員の同意が得られれば大丈夫です。
相続人同士が離れていてなかなか話し合いができない場合は電話や郵送で話をしても問題ありません。
ただし、
- 誰が
- どの財産を
- どのくらい
取得するのかは、はっきりさせておきましょう。
全体の財産に対して2分の1とか4分の1とか曖昧な決め方ではなく、不動産はだれ、車はだれ、預貯金はいくらずつという形で明確に決めておくことが大切です。
4-4.【STEP 4】遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議で話し合った内容を文書にします。
この文書が「遺産分割協議書」になります。
不動産の内容や預貯金の口座など、できるだけ詳細に、(誰もが文面を見ただけで)特定できるように記載します。
必要であれば不動産の登記簿謄本や、銀行の残高証明書、自動車の車検証等も用意して、正確に記載していきましょう。
厳密な書式があるわけではありませんので、チラシの裏面に手書きであっても必要な情報が載って入れば問題ありません。
(ただ、大切に保管していく書類になりますので、すぐに破れたりすることがないような紙にしておきましょう)
4-5.【STEP 5】遺産分割協議書に相続人全員が署名捺印をする
遺産分割協議書ができると、最後に相続人全員が署名をして、実印を押印します。
そして、実印の証明としてそれぞれの印鑑証明書を添付します。
署名と実印によって、相続人本人が合意して作成したことの証明になります。
※なお署名の際の住所は印鑑証明書に記載されている通り「〇丁目〇番地〇号」まで記載するようにしましょう。
5.〈よくある!〉遺産分割協議書の作成で注意したい4つのポイント
当センターでも遺産分割協議書の作成をサポートしていますが、中には「遺産分割協議書は自分たちで作成したので使ってください」とお預かりすることがあります。
しかしその多くが、不備により銀行や不動産(法務局)の手続きに通用しません。
(正直に申しますと、何度もそれを経験しています…)
ここでは、自身で作成した遺産分割協議書によくある不備(失敗例)をご紹介します。
5-1.押印しているハンコが実印ではない
遺産分割協議書に押印するハンコはどんなハンコ(いわゆる認印)でもいいというわけではなく、役所で登録した実印を押印することをお勧めしています。
実印を押すことが必須ではありませんが、基本的に銀行や法務局(不動産)、税務署(相続税申告)などの手続きでは、実印の押印が求められるためです。
また先ほどもお伝えした通り、実印は相続人本人であることの証明にもなります。
よって遺産分割協議書を作成した際は、必ず実印を押印するようにしましょう。
5-2.印鑑証明書を添付していない
遺産分割協議書に実印を押印していても、それが本当に実印かどうかは第三者には分かりません。
そのため、印鑑証明書を添付することで、それが実印であることを証明します。
遺産分割協議書に実印を押印したら、必ず印鑑証明書も取得して添付するようにしましょう。
5-3.財産の表記が曖昧である(※不動産に多い)
不動産の名義変更では、多くの場合遺産分割協議書が必要です。(2-1章)
その際に遺産分割協議書における不動産の表記が曖昧で、「この不動産」と特定できないような場合は、法務局で使用を認めてもらえない場合があります。
例えば「自宅の不動産は長男Aが取得する」では、本人が自宅とわかっていても、第三者から見るとどれが自宅なのか特定できません。
そうではなく、しっかりと不動産について「所在、地番、地目、地積」等まで記載して、第三者からでも不動産を特定できるように注意して作成するようにしましょう。
確実に記載するためには、法務局で登記情報を取得し、その通りに記載することをお勧めします。
5-4.相続財産について記載漏れがある
4-2章の財産目録でも触れましたが、遺産分割協議書に財産の記載漏れがあると、その遺産については誰が取得するか分からないため、その遺産についてもう一度遺産分割協議をする必要があります。
協議をするだけなら話し合いなので簡単と思われるかもしれませんが、協議をした後は協議書にまとめなければなりません。
そしてまた相続人全員の署名捺印が必要です。
そうならないためにも、被相続人の財産調査はしっかり丁寧に、漏れがないように作成しましょう。
6.まとめ
遺産分割協議書は、相続手続きにおいて不要なケースもあります。
相続人の数、相続財産、そして相続人同士が「どのように相続したいか(配分したいか)」により、手続きをするうえで遺産分割協議書が必要かどうかは異なります。
ですが、手続き上必要ではないような場合でも、「たしかにこの通り話し合って同意した」という証拠として、遺産分割協議書を作成することをお勧めします。
当センターに相続手続きの代行をご依頼いただいた場合は、財産目録の作成から遺産分割協議書の作成まで含めて、全てサポートいたしますが、もちろん、ご自身で遺産分割協議書を作成することもできます。
(ひな形もインターネットで検索するとたくさん出てきます。)
しかし5章でもご紹介したように、ご自身で作成した遺産分割協議書に不備等がある場合は、手続き先によっては無効とされてしまうこともあります。
せっかく時間をかけて完成した遺産分割協議書が、不備により再度作成することになると、
- 不備がもとでケンカになり、相続人間の関係がぎくしゃくする
- 再度作成している間に相続人が亡くなり、相続関係が複雑になってしまう
といったことも実際にあり、結果的に当センターに全てをご依頼されたというケースもあります。
遺産分割協議書は、丁寧かつ詳細に書くように心がけましょう。
この記事が、遺産分割協議書の理解にお役立ていただけると幸いです。