封筒に入った遺言書を見つけたが、勝手に開封してよいかわからず悩んでいませんか?
「亡父の部屋を片付けていると、『遺言書』と書かれた封筒を見つけた。勝手に開封してよいのかわからないので調べてみたら、ダメだと分かった。この場合どうしたらよいのでしょうか。」
これは実際にあったご相談です。
結論からお伝えしますと、遺言書の「検認」をする必要があります。
遺言書の「検認」とは、簡単にいうと家庭裁判所で遺言書の内容を確認する手続きのことで、遺言書の偽造・変造を防止したり、相続人に対し遺言の存在・内容を知らせたりするための制度です。
ただし、全ての遺言書において検認の手続きが必要かというと、そうではありません。
検認が必要な遺言書は「自筆証書遺言」といわれる、遺言をする人が全文を手書きで記した遺言書の場合のみです。
もしあなたが見つけた遺言書が自筆証書遺言であれば、検認する必要があります。
この記事では、
- 検認とはどういう手続きなのか
- 検認の手続きをするにはどういった書類が必要なのか
- 検認はどのような流れで進めていくのか
をイラストを交えて詳しく解説し、最後に「検認」についてよくある質問をまとめました。
この記事を最後まで読んでいただければ、封筒に入った自筆証書遺言を発見したときに、慌てずスムーズに対応できるようになるはずです。
すでに今その状況でお困りの方も、必ずお役立ていただけると思います。
1. 遺言書の検認とは
検認とは、自筆証書遺言が見つかったときに家庭裁判所に申立てをし、相続人立会いのもとで遺言書の内容を確認する手続きのことです。
その際、裁判所にて遺言書のコピーが保管されることになりますので、後に遺言書トラブルの原因になりうる「偽造・隠蔽・破棄」といった事象を防止することができます。
なお、少し話は逸れますが、自筆証書遺言書とは既にお伝えした通り「遺言をする人」が全文自筆で書いた遺言書のことです。
自筆証書遺言とよく比較されるのが「公正証書遺言」で、こちらは公証役場で公証人という法律の専門家と一緒に作成する遺言書のことで、原本が公証役場に保管されるため、検認をする必要がありません。
≪関連リンク≫
※自筆証書遺言と公正証書遺言とは?
※公正証書遺言の必要書類は?
それでは、「検認」について詳しく見ていきましょう。
1-1.自筆証書遺言に検認が必要な理由
自筆証書遺言書に検認が必要な理由は、大きく次の2つです。
- 改ざん防止
見つかった遺言書が、書き換えられたり、内容を付け加えられたりするのを防ぐこと - 相続人への周知
他の相続人に対して、遺言書があること、その内容を知らせること
要は、「遺言書が見つかりましたよ。遺言書の内容はこうですよ。」と相続人に知らせるために検認を行います。
※検認は、遺言の内容が有効か無効かを判断するための手続きというわけではありません。
1-2.検認の申立てが必要な人
検認の申立てが必要な人は、
- 遺言書を保管している方(例:夫が書いた遺言書を預かっている妻など)
- 遺言書を見つけた相続人
です。
検認の申立てをしなければならない人が手続きをしなかったり、検認しないまま勝手に開封したりしてしまうと、5万円以下の過料に問われることもあります。
くれぐれもご注意ください。
また、遺言書の内容が自分に不利だからといって、「偽造・隠蔽・破棄」等の行為をすると相続人としての地位が無くなる可能性もありますので、絶対にやめましょう。
1-3.検認は家庭裁判所に申立てする
検認手続きは家庭裁判所に申立てすることになります。
家庭裁判所は全国にたくさんありますが、どこの家庭裁判所でもよいということではなく、「遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」に申立てをしなければなりません。
(例:亡くなった方の最後の住所地が大阪市の場合…大阪家庭裁判所)
管轄の裁判所が分からないときは裁判所のHPで調べることができますので、ぜひご活用ください。
1-4.検認の大まかな流れ
検認手続きの流れについて、まずは大きな流れをお伝えします。
(詳しくは3章で解説しています)
- 家庭裁判所に検認の申立てをする
必要書類を揃えて申立てをします。
(2章で解説しています) - 検認期日の通知
家庭裁判所から相続人に対し、検認期日(検認を行う日)の通知があります。
(申立人以外の出欠は各相続人の自由です) - 検認期日当日
申立人は家庭裁判所に行き、遺言書の原本を提出します。
裁判官が開封し、遺言書の検認をします。 - 「検認済証明書」の付いた遺言書を受け取る
検認後、遺言書に「検認済証明書」を付けてもらいます。
(遺言通りに手続きをする為には、この証明書が必要になります)
以上のように検認は進み、検認後に検認済証明書が発行されてようやく実際に不動産や銀行預金の名義を遺言者から相続人の名義に変更することができるようになります。
2. 遺言書の検認の申立てに必要な5つの書類
前の章で検認とはどういうものか、なぜ必要なのかをお伝え致しました。
どういった流れで手続きが進んでいくかを掴んでいただけたかと思います。
それでは、実際に検認の申立てをする際の必要書類について解説していきます。
2-1.申立書と当事者目録
まず、家庭裁判所に検認の申立てをする際に記入する申立書は必須です。
書式、ひな形は家庭裁判所のHPからダウンロードできます。
以下、記入例です。
- 申立人(検認を請求する本人)
- 被相続人(亡くなられた方)
- 相続人になる方
の情報を記載します。
本籍・住所・生年月日等が必要になりますので、戸籍や住民票を見ながら記載します。
次に、当事者目録を記入します。
ここには全ての相続人の情報を記載します。
検認の通知もこの住所宛に届きますので、間違いのないように正確な住所を記載します。
2-2.亡くなった人と相続人の戸籍謄本
亡くなった方の相続関係を特定するために、亡くなった人と相続人の戸籍謄本が必要です。
単純に亡くなった方の戸籍があれば事足りるわけではなく、亡くなった方の出生から死亡までの全ての戸籍を取得することで、誰が相続人になるのかを証明しなければなりません。
これらは、それぞれの本籍地を管轄する役所で取得することになります。
【検認手続きに必要な戸籍】
- 亡くなられた方の出生から死亡までの全ての連続した戸籍
- 相続人全員の戸籍(現在戸籍)
また亡くなられた方の相続関係(相続人が兄弟姉妹等)によっては、さらに必要になる戸籍があります。
2-3.収入印紙
申立書に貼り付ける為の収入印紙が必要です。
遺言書1通につき800円分の収入印紙が必要ですので、仮に検認する遺言書が2通ある場合は、1,600円分(800円×2通分)の収入印紙が必要になります。
収入印紙は、郵便局やコンビニでも購入できます。
※収入印紙には割印はせず、申立書に貼付するだけにして下さい。
2-4.郵便切手(家庭裁判所からの連絡用)
家庭裁判所から各相続人への通知などに使用する為の切手が必要です。
相続人が多くなればなるほど通知する人が増えますので、それだけ切手が多く必要になります。
何円分の切手を入れるかは、管轄の家庭裁判所に確認をしましょう。
2-5.遺言書のコピー(開封は厳禁!)
必須書類ではありませんが、遺言書のコピーも念のため提出しておいていた方がよいでしょう。
ただし、封筒に入ってのり付けされている場合は、もちろん勝手に開封することは厳禁です。
その場合は遺言書のコピーではなく、遺言書が入っている封筒のコピーを残しておきましょう。
(万が一の際に、どのような状態で保存されていたかの資料になります)
※遺言書が封筒に入っていて封がされている場合、勝手に開封すると5万円の過料が課されます。
3. 検認の申立てから完了までの流れ
この章では、検認の申立てから完了までの実際の流れを詳しくご説明します。
(※事案によってはあてはまらないケースもありますので、一つの例としてご覧下さい)
3-1.必要書類を収集し、家庭裁判所に申立て
2章でお伝えした必要書類が全て揃ったら、いよいよ管轄の家庭裁判所に検認の申立てをします。
申立ては、家庭裁判所に「郵送」または「直接持参する」方法のいずれかで行います。
申立てをすると、家庭裁判所から検認期日(家庭裁判所に行って遺言書を実際に検認する日)について、申立人と調整が入ります。
一般的には電話で、家庭裁判所と申立人とで日程の調整を行います。
(他の相続人は参加必須ではないので、日程調整はあくまでも申立人のみと行われます)
3-2.家庭裁判所から相続人へ検認期日の通知
検認期日が決まると、家庭裁判所から各相続人に通知されます。
この通知で初めて遺言書があったという事実を知る人もおられるかもしれません。
そのため、検認期日には申立人は必ず出席しなければなりませんが、その他の相続人については任意です。
検認当日に出席するかどうかは各相続人に委ねられており、申立人以外が欠席しても検認は行われます(参加は義務ではありません)。
3-3.検認期日(検認の当日)になったら家庭裁判所に行く
いざ、検認の当日になったら家庭裁判所へ行きます。
検認の当日、申立人は以下の物を持参します。
- 遺言書の原本
- 申立書に押印した印鑑
- 150円分の収入印紙(大体は家庭裁判所内で販売してます。検認した遺言書1通につき150円分です)
そして出席した相続人等の立会いの下、裁判官が遺言書を検認します。
検認が終わると、「検認済証明書(検認が終わったことの証明書)」の申請をします。
(この申請に150円分の収入印紙を使用をします)
遺言書に「検認済証明書」が付けられ、検認の手続きはすべて終了となります。
4.検認についてよくある7つの質問
実際に検認のご相談をたくさんいただく中で、よくある質問を7つピックアップしました。
- 封がされていない遺言書があるけど開けていい?
- 遺言書に書いていない財産があるけどどうなる?
- 自分にとって不利な内容が書いてあるけど…捨てたら…ダメ?
など、身近な質問を集めましたので、ぜひご覧ください。
4-1.遺言書が封筒に入っていますが封はされていません。それでも中を見てはいけないのでしょうか。
A.封がされていなければ、中身を見ても大丈夫です。
遺言書を見つけたときに、封筒には入っているが、特にのり付けされておらず開いた状態のときなどです。
法律上開封してはいけないのは「封印のある遺言書」ですので、初めから開いていたのであれば中を見ても問題ないかと思われます。
ただし、その場合も検認は必要ですので、家庭裁判所に申立てをしましょう。
4-2.遺言書を見つけたので読んでみると、一部記載のない財産等がありました。それでも検認はできますか。
A.検認の申立てはできます。
検認の手続きは、遺言書の内容が有効か無効かを判断するものではないので、検認はできます。
なお、その記載のない財産については相続人全員での遺産分割協議によって相続する人を決めます。
4-3.遺言書の検認をしてしまうと、必ずその遺言の内容通りに相続しなければならないのでしょうか。
A.相続人全員の合意があれば、遺言と違う分け方でも大丈夫です。
仮に遺言書の中身が「相続人Aに全てを相続させる」という文言になっていたとしても、Aを含む全ての相続人の合意があれば遺言とは違う分割をしても問題ありません。
4-4.見つけた遺言書が自分にとって不利な内容なので捨ててしまいたいのですが、ダメでしょうか。
A.絶対にダメです。
遺言書を破棄したり、偽造したり、隠したりすると相続人の欠格事由にあたり、相続人としての立場を失う(そもそも相続人ではなくなる、相続人としての一切の権利を失う)可能性があります。
遺言書を見つけたら、内容の如何に関わらず速やかに検認の手続きを進めて下さい。
それがたとえ自分にとって不利な内容だったとしても、相続権さえあれば請求できるものがあるかもしれません。
4-5.検認の当日は、他の相続人と顔を合わせることになりますか。
A.可能性はあります。
申立人以外の相続人に関しては出席は任意(出席するかしないかは本人次第)ですので、誰も参加されない可能性もあります。
しかし、もし参加される相続人がいた場合は当然同じ控室で待機し、参加者全員の前で開封されますので、検認に来られた相続人とは顔を合わすことになります。
4-6.検認の申立てから完了までにはどれくらいの期間がかかりますか。
A.通常は申立てから検認期日まで1~2カ月かかります(相続人の関係にもよります)。
親子関係の相続ではなく兄弟姉妹が相続人になる場合、戸籍の収集だけでも1カ月以上かかることもありますので、少しでも早めに検認の準備を進めましょう。
4-7.法務局で遺言書を保管してくれる制度があると聞いたのですが、本当ですか?
A.本当です。「自筆証書遺言書保管制度」のことです。
2020年に民法が改正され、全国の法務局にて遺言書を預かってくれる制度が始まりました。
保管してくれる遺言書は全文自筆で書かれた(財産等についてはパソコン等で作成可能な個所もあります)自筆証書遺言書のみです。
なお、法務局で保管された遺言書については、相続開始時に検認をする必要はありません。
詳しくはこちらをご参考ください。
5.まとめ
ここでは検認の必要書類や、申立てから完了までの流れをお伝えさせていただきました。
申立書の記入や申立て手続き自体はとてもシンプルなものですが、必要書類を集める中で戸籍の収集が一番の山場になるかと思います。
相続人が多かったり、相続関係が複雑だったり、本籍地がバラバラだったりすると、全国の役所から戸籍の取得をする必要が生じると考えられます。
もし戸籍の取得でつまずかれた場合は、行政書士や司法書士といった専門家に収集してもらうのも一つの手段です。
遺言書は「遺言された方から、残された方々へのラブレター」です。
故人の思いを実現させるためにも、この記事が少しでも検認の手続きのお役に立てましたら幸甚です。