公正証書遺言とは、遺言をする人が公証人と一緒に作成する遺言書のことです。
遺言の内容を口頭で告げ、それを公証人が文章に起こしたもので、全国にある公証役場に赴くか、公証人に出張に来てもらうかを選択することができます。
そのような公正証書遺言、いざ作りたいと思い色々調べてみても
- どんな書類が必要?
- どこで取得したらいいの?
- どんな情報があれば公正証書遺言を作成できるの?
と、実際に私たちのもとにもこのようなご相談は数多く寄せられます。
この記事では、公正証書遺言を作成するにあたって、必ず用意する書類、財産別に必要な書類、作成をスムーズに進める為に知っておいた方が良い情報などを詳しく説明していきます。
イラストや実際の書類を交えて説明していきますので、ぜひお読み下さい。
必要な書類を事前に準備・把握しておけば、公証役場で公証人と打合せする際にスムーズに進めていけるでしょう。
また記事をお読みいただきながら使える「公正証書遺言を作るときに必要な書類チェックリスト」を作成しました。
下記よりダウンロードして、ぜひご活用ください。
公正証書遺言を作るときに必要な書類チェックリスト(PDFが開きます)
【公正証書遺言の特徴】
◎自筆証書遺言と違い、家庭裁判所での検認が不要
◎公証役場で遺言書の原本を保管するため紛失の恐れがない
【公正証書遺言作成の簡単な流れ】
①遺言の案文を作成しておく
②必要書類を準備する(←この記事で説明します)
③公証役場に連絡し、公証人と遺言内容等の打ち合わせをする
④証人の準備(2名必要。この記事でも触れています)
⑤当日、公証人と公正証書遺言を作成する
目次
1.公正証書遺言を作成するときに必ず用意する4つのモノ
基本的には遺言をする方のお住まいの役所にて取得できる書類がほとんどです。
取得後3カ月以内など期限がある書類もありますので、公証役場に行く予定が決まってから準備しましょう。
では、まず必ず用意する4つのモノをお伝えします。
1-1.実印(遺言をする人のもの)
住民登録をしている役所で登録されているハンコです。
「遺言をする人」が公正証書遺言を作成する当日に必要になります。
意外かもしれませんが、公正証書遺言の相談をしていると、実印を今まで登録されていない方や、登録したハンコがどこにあるかわからない、といった方が少なくありません。
もし登録されていなかったり、登録したハンコが見つからない場合は、役所で印鑑登録の申請をしましょう。
また印鑑登録は原則、住所地の役所に印鑑登録する本人がハンコを持参して申請をしなければなりませんが、役所によっては代理人よる申請を受け付けている所もあるので、事前に確認してみましょう。
例:大阪市 印鑑登録申請 (…>戸籍・住民票・印鑑登録>印鑑登録に関すること)
1-2.印鑑証明書(遺言をする人のもの、発行後3カ月以内)
「遺言をする人」の必要書類です。
住民登録している役所で、ハンコを登録していると発行してもらうことができます。
ハンコの印影や住所・氏名等が記載されており、本人確認書類として使用されます。
発行の際は役所の窓口に「印鑑登録証(印鑑登録をした際に発行されたカード)」を持参しましょう。
また役所にご自身でいけない場合は、代理人での請求もできます。
代理人での請求はご自身の印鑑登録証を代理人に預けて、窓口で請求します。
その際に代理人の身分証明書が必要になります。
詳しくはお近くの役所にて確認してみましょう。
※印鑑登録証を紛失した場合などは実印の再登録が必要なケースもありますので、事前に役所に確認してみましょう。
1-3.戸籍謄本(遺言をする人・財産をもらう相続人のもの)
「遺言をする人」と「財産をもらう相続人」の続柄がわかる戸籍が必要になります。
戸籍は本籍地がある役所で発行してもらうことができます。
また、結婚などで戸籍を抜けられている場合は、抜ける前の戸籍が必要になるケースもあります。
役所の窓口で取得の際に必要なものは、
- 戸籍全部事項証明書等交付請求書(役所によって名称が少し変わります)
- 本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカードなど)
- 認印
です。
役所が遠隔地にあり戸籍を取りに行くのが大変な場合は、郵送による請求、代理人による請求も可能です。
■郵送で請求する場合
交付請求書、交付手数料、本人確認書類の写し、返信用封筒が必要になります。
また交付手数料は、定額小為替(郵便局で取り扱っています)で払います。
定額小為替とは-ゆうちょ銀行
■代理人が請求する場合
請求する人から代理人への委任状が必要となります。
1-4.住民票(遺言で財産をもらう人が相続人以外のとき)
「遺言書により財産をもらう人」が相続人でない場合は、もらう人の住民票が必要になります。
もらう人が住民登録している役所で発行されます。
ここで注意しておきたいのが、基本的に戸籍や住民票はご自身の直系(父母・祖父母・子・孫など)の人のものしか取得できませんので、「遺言書により財産をもらう人」が直系以外の親族(例えば配偶者や義理の父母など)や第三者の場合は、その本人に取得してきてもらいましょう。
2.財産の種類によって準備する書類
1章では本人確認書類などの必ず用意する書類の説明でしたが、次の書類等に関しては、遺言書の内容によって準備する書類になります。
お手元で保管しているはずの書類や、法務局等で取得する書類があります。
それでは、書類の説明や取得場所についてお伝えしていきます。
2-1.不動産がある場合
・登記事項証明書
「遺言をする人」の不動産を特定する為に必要な書類です。
所在・地番等の情報が載っています。
不動産の地番(住所とは違う場合があります)が分からない場合は、その土地や建物がある管轄の法務局に電話で地番照会ができます。
法務局の窓口で請求できるほか、オンラインでも請求できます。
オンラインでの請求なら手数料が安く、窓口で待たなくてもいいので法務局ではオンラインを進めていますが、少し複雑なので、実際は法務局の窓口で請求する方が簡単です。
登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です :法務局
オンライン請求の為のリーフレット
・固定資産税納税通知書
不動産の所有者に対し、固定資産税の支払いの為に送られてくる書類です。
固定資産税額や不動産の評価額等が記載されています。
毎年4~6月くらいにご自宅に役所や市税事務所等から送られてくる書類です。
基本的には再発行できないので、紛失等でお手元にない場合は下記の固定資産評価証明書等を取得しましょう。
・固定資産評価証明書
「遺言をする人」の不動産の所在地や評価額が記載されている書類です。
不動産がある地域の市役所等で請求できます。
上記「固定資産税納税通知書」がお手元にない場合はこの書類を必ず取得する必要があります。
申請に必要な書類は、交付申請書や免許証などの本人確認書類です。
代理人による取得や、郵送での請求も可能です。
それぞれの役所のホームページで確認しましょう。
2-2.預貯金がある場合
・「遺言をする人」の通帳のコピー
遺言によって譲り渡す銀行口座を特定する為に必要です。
支店名、預金種類、口座番号が分かる箇所と、最新の口座残高が分かるページのコピーを準備しておきましょう。
2-3.自動車がある場合
・車検証のコピー
「遺言をする人」の財産に自動車が含まれているときは必要になります。
車検証には型式・自動車登録番号や車台番号が記載されており、どの自動車か特定することができます。
自動車のグローブボックス(助手席の前の収納)に保管されてることが多いです。
あまり見る機会がない書類ですので、あるかどうか不安な方はこの機会に一度探してみてはいかがでしょうか。
もし探しても見つからないときは、「自動車の使用の本拠の位置を管轄する運輸支局」又は「自動車検査登録事務所」で再発行の手続きをする必要があります。
※自動車に備え付けておくことが法律で義務付けられていますので、見つからない場合は遺言書の作成に関わらずすぐに再発行しておきましょう。
2-4.株式証券・投資信託がある場合
・取引残高報告書
「遺言をする人」の財産に株式や証券が含まれているときは必要になります。
証券会社から定期的に送付されてくる取引明細書です。
保有している株式等が載っています。
証券会社名、支店名、口座番号、保有している株式を確認しておきましょう。
もしお手元にない場合は、証券会社に連絡してみましょう。
2-5.著作権、特許権
・著作物等が分かるメモ、特許登録原簿のコピー
著作権や特許権も相続の対象となる財産です。
著作物メモ(著書名や著者名など)や特許登録原簿のコピーを準備しておきましょう。
どの著作物や特許権なのかを特定できる情報があれば大丈夫です。
2-6.ピアノや絵画・掛け軸など高価な家具等
・品番や作成者が分かるメモ
ピアノや掛け軸等も相続の対象になります。
ピアノであればメーカー名、品番や製造年代を調べてメモを準備しておきましょう。
絵画や掛け軸であれば作品名、制作者、サイズなどを記録しておきましょう。
ポイントは、他のピアノや掛け軸などと正しく区別できるかどうかです。
判断が難しい場合は公証人に確認してみましょう。
3.スムーズに公正証書遺言を作成する為の3つのポイント
この章では、公正証書遺言の作成をスムーズにする為の3つのポイントを紹介します。
準備しておくことで公正証書遺言の作成費用が少し抑えられたり、公証人との打ち合わせがスムーズになったり、より良い遺言書を作れるかと思います。
ぜひご参考下さい。
3-1.遺言の内容を書いた手書きメモを用意する
どういう遺言を作りたいのかを書いたメモです。
メモの内容は
- どういう財産があるか
- どの財産を誰にあげたいか
- なぜ財産をあげたいのか
などを走り書きで良いのでまとめておきましょう。
公証人とのやり取りがスムーズにできるはずです。
後は、それをもとに公証人が案文を作成してくれます。
3-2.証人を知り合いに頼むなら、その人の住民票を用意する
公証役場で公正証書遺言を作成する場合、その作成当日には証人が2名が立会いしなければなりません。
ただ、この証人は誰でも良い訳ではなく、遺言者の相続人や、受遺者(遺言で財産をあげる人)とその配偶者や子どもなどは証人になれません。
もし誰も証人を頼む人がいない場合は公証役場で紹介してもらえる(※ただし費用がかかる)場合もありますので、公証人に相談してみましょう。
証人2名の運転免許証または住民票のコピー、職業が分かるメモを用意しましょう。
3-3.遺言執行者を指定するなら、遺言執行者になる人の戸籍等を用意する
遺言では「遺言執行者」を指定することができます。
「遺言執行者」とは、「相続財産の管理や、遺言の内容を実現させる為に必要な行為」(銀行の口座を解約して、受遺者に渡すなど)をすることができる人です。
もっと簡単に言うと、遺言の内容を実現する人、遺言通りに手続きをする人のことです。
基本的には誰を指名しても良いのですが、未成年者や破産者は遺言執行者になれませんのでご注意下さい。
遺言執行者が相続人なら戸籍謄本、相続人以外なら住民票を用意しましょう。
4.公正証書遺言の作成を専門家に頼むべき3つの理由
公正証書遺言を作成する場合、自分で公証役場へ行って公証人に相談して作成することも可能ですが、専門家に頼むこともできます。
法律の専門家にもいろいろな資格の人がいますが、トラブル等が予想されるなら弁護士、財産が不動産だけなら司法書士、それ以外であれば行政書士に頼むと良いと思います。
自分のケースではどの専門家に頼めば良いのか不明な場合や迷われた際は、専門家が集まっているところに相談すれば適切な専門家に対応してもらえると思います。
専門家に頼むということはもちろん費用がかかることになりますが、それでもご自身で作成するよりも専門家に頼んだ方が良い理由としては、遺言を作成するときの失敗のリスクを減らせるというのが最大の理由です。
この章では公正証書遺言を作成するときに、法律の専門家にサポートを頼むべき3つの理由を紹介します。
4-1.遺言書の内容チェックや公証人とのやり取りをしてくれる
専門家がサポートしてくれると、遺言書の内容の起案やチェック、公証人とのやり取りを代わりにしてもらえます。
また、「これも書いた方が良いですよ」とか「この方が良いのでは?」などのアドバイスをしてもらうこともできます。
公証人も専門家としてアドバイスしてくれることもありますが、公証人はあくまでも遺言者の意思を形にすることが使命ですので、必要以上の提案をしてくれるかどうかは公証人次第になってしまいます。
ああしておけばよかった…これも書いておけばよかった…と後から思っても、作り直す場合はまた同じ手間や費用がかかることになってしまいます。
公証役場へ公証人とのやり取りで何度も足を運ぶ必要がなく、出来るだけベストな内容の遺言書を作成する為には、専門家に相談するのも一つの方法です。
専門家がお手伝いすることで、遺言者と公証人が会うのは遺言作成の当日だけ、といった場合もあります。
4-2.たくさんの必要書類の収集を頼める
今までご覧いただいた通り、公正証書遺言を作る為には多くの書類が必要になります。
専門家に頼むと戸籍や残高証明書などを代わりに収集してくれるので、役所に行って長い時間待って戸籍を取得する、といった手間が省けます。
また不動産の納税通知書等が手元にない場合でもそれに代わる書類を取得してもらえたりします。
書類収集には時間と手間と知識が必要な場合が多いので、専門家に頼むメリットの一つです。
4-3.遺言執行者や証人になってもらえる
公正証書遺言の作成に必須な証人の手配や、相続が始まったときに遺言の内容を実現してくれる遺言執行者を専門家に頼むこともできます。
特に、専門家を遺言執行者に指定すると、実際に相続が開始した後の不動産の名義変更や金融機関の解約払戻しといった複雑な手続きを相続人に代わってしてもらうことができます。
実際にその遺言が実行されるとき、その時はもちろん遺言者はいないわけですので、責任を持って遺言書の内容を実現してくれる人という意味でも専門家なら安心です。
相続人や受遺者が何人もいるときには、遺産の分配の公平性や透明性が図られるでしょう。
5.まとめ
公正証書遺言を作成するときの必要書類を紹介させいていただきました。
この記事にある書類が全てではなく、どんな遺言をしたいかで必要な書類は変わってきます。
また、公正証書遺言を作成する際にはお近くの公証役場に行かれることになるかと思います。
公証人の先生によっては、追加の書類が必要になることや、また不要な書類も出てくるかと思いますので、事前に確認しておくのが大切です。
遺言は残されたご家族や大切な方へのラブレターです。
思いをしっかり伝える為に、書類の収集などの準備で手間取らないようになっていただけたら幸甚です。