【遺留分請求をされる人向け】遺言書より優先される遺留分について徹底解説

相続のいろは 遺言

「亡くなった人の遺言書があれば、書かれている通りに相続財産が分配される」と考えている人は多いのではないでしょうか。

たしかに、遺言書に「誰に、何(どの財産)を、どれだけ渡したい」ということが書いてあれば、基本的にはその内容が優先されます

ここで「基本的には」と添えたのには理由があります。

実は遺言書がある場合、「遺留分(侵害額請求権)」という権利が法律で定められているのです。
(以下、遺留分と略します。)

「遺留分」とは、本来財産を受け取るはずだった相続人(※1)が、遺言内容によって、法律で決められた財産(※2)を受け取ることができなくなった場合に、(遺言書により)財産を受け取ることになった人(受遺者※3)に対して、受け取るはずだった財産(※2)の一部を請求できる権利です。

ここで、まずおさえておきたいのは遺言書がない場合の法定相続についてです。

遺言書がなく財産について指定がない場合は、相続財産を「誰が」「どれだけ」受け取れるかについて法律で定められています。

  • (法定)相続人:亡くなった人の財産を受け取る権利がある人(上記※1)
  •  法定相続割合:亡くなった人の財産を受け取れる割合   (上記※2)

(詳細は国税庁のHPへ)

つまり遺留分とは、遺言書がなければ、法律上相続人(※1)がある程度(※2)財産を受け取れていたところを、遺言によって特定の人(※3)が受け取ることになった際に、相続人(※1)は特定の人(※3)に遺留分の請求ができるということです。

イラストで分かりやすく説明します。

遺留分とは

※長女が遺留分の請求をする人、次女が請求をされる人です。
このときの法定相続人は、長女と次女の2人なので、母の財産の1/2ずつを受け取るはずでした。
ですが、母の遺言により長女が相続できなくなり、(全財産を受け取った)次女に遺留分を請求することができます。

この遺留分の制度は、法律で決められた財産を受け取れなくなった相続人の生活を保障するために設けられています。

さて本題ですが、この記事では遺留分について「請求される側」に特化して解説していきます。

被相続人(亡くなった人)の遺言書により「全財産を自分が受け取ることができる!」となった人は特に、この「遺留分を請求されたらどうしたらいいんだろう…」と不安になりますよね。

遺留分は、請求されたら必ず支払わなければなりません。

実際請求されたときに慌てないために、遺留分の請求について今から正しく理解することにお役立てください。

1.遺留分を正しく理解しよう(6つの特性)

先に遺留分について簡単にご説明しましたが、この章ではより具体的に遺留分について解説します。

遺留分には、主に6つの性質があります。

1-1.遺言書よりも遺留分が優先される

冒頭でもお伝えした通り、遺言書を作成することで、亡くなった際に自分の財産を「好きな人に」「好きな割合で」財産を渡すことができます。(法定相続人、法定相続割合に縛られません)

つまり、例えば「○○に全財産を渡す」という遺言書を遺しておくと、家族以外の人でも財産を渡すことができます。
(中には、財産の一部を特定の団体に寄付するという遺言書を作る人もいます。)

基本的には遺言書の内容が優先されます。

しかし遺言書通り相続されてしまうと、相続財産を頼りに生活しようとしていた法定相続人からすると、生活が脅かされる可能性もあります。
(遺言の内容によっては、住む家を失い生計を立てることが難しくなる事態も考えられるのです。)

そこで法律では、遺言書の内容にかかわらず、本来の相続人が最低限相続できる権利を保証しています。
(これが遺留分請求の本質です)

よって、遺言書に「○○に全ての財産を相続させる」と書かれていても、遺留分の請求があった場合は遺言書の内容より遺留分請求が優先されます。

※遺留分で請求できる金額には制限があります。後ほど詳しく解説します。

1-2.遺留分請求には必ず応じる(支払う)こと

「遺留分は遺言書より優先される」

という関係が成り立つ以上、相続人から遺留分を請求された場合は必ず支払わなければなりません

「どうしても支払いたくない」と思って応じないでいると、裁判になる可能性も十分あります。

思わぬトラブルにならないよう、遺留分の請求をされた場合はきちんと応じましょう。

ですが、遺留分の請求をするかどうかは本人次第です。

もし請求されなければ、支払う必要はありません。

遺留分の請求はあくまで権利であるため、請求については請求する権利のある相続人の意志に委ねられています。

(例えば、もし相続人が遺言書の内容に納得していれば、必ずしも遺留分請求をされるわけではないということです。)

1-3.遺留分請求できる相続人に範囲がある

法定相続人であっても、遺留分請求の権利を有する相続人とは、法律で下記2つの条件が定められています。

  • 法定相続人であること
  • (被相続人から見て)配偶者、子、孫、父母、祖父母であること(※代襲者含む)

遺留分の請求権利がある人

つまり、相続人であっても兄弟姉妹やその代わりとなる代襲者には請求権はありません。

その理由は、遺留分は遺族が生活に困らないように設けられており、配偶者や子に比べて兄弟姉妹は、その関連性が低いということだと考えられます。

1-4.請求金額は相続関係と財産によって決まる

実際に遺留分を請求された場合に最も気になる「どれくらい支払う必要があるのか」について解説していきます。

それは、被相続人の死亡日時点の相続関係によって異なります。

遺留分の請求額は、法定相続割合をもとに、相続人の中でもその割合が法律で決められているのです。

言い換えれば、「妻(または子)だから〇〇万円もらえる」ということではありません。

よって、「相続関係(被相続人とのつながり)」と「相続財産」によって金額が変わってきます。

具体的に、イラストで見てみましょう。
(被相続人を起点としています)

遺留分の割合

これをもとに、例えば下記のようなケースについて考えてみましょう。

例:(父が先に他界しており)母が亡くなって「次女に全財産を相続させる」という遺言書があった場合

遺留分は(相続財産がなかった)長女と三女が次女に請求できます。

仮に、長女のみが次女に遺留分請求するとしましょう。

①まず相続財産3,000万円に対して、相続人が子のみのため遺留分割合は1/2となります
(※遺留分請求できる人が何人いようとこの割合は変わりません)

②そのうち、本来の相続人が子3人であるため、長女の法定相続割合は1/3です

このように遺留分の請求額は、
①相続財産全体に対する割合
②本来の法定相続割合
によって導きます。

つまり長女が遺留分請求できる金額は、相続財産全体の1/6(3,000万円×1/6)の500万円となります

遺留分請求の一例

1-5.遺留分請求の期限は1年以内(※例外あり)

遺留分の請求をするには期限(時効)があります。

  1. 相続が発生し、「遺留分が侵害されたこと」を知った日から1年以内
  2. 相続が発生した日(=亡くなった日)から10年以内

このうち早く期限が来る方が採用されます

「遺留分が侵害されたことを知った日」というのは、遺言書の内容により自分に相続がないことを知った日のことです。

ポイントは、亡くなった日から1年以内ではないということです。

具体的にイラストで解説していきます。

遺留分の請求期限

いずれにせよ、「自分に相続があったはずなのに!遺留分が侵害されている!」と気づいた場合は1年が期限ですので、請求する場合は早急に対応する必要があります。

逆に遺留分請求をされる側は、相続発生後10年は請求される可能性があります。

1-6.請求できる財産は生前贈与も含む

遺留分の請求ができる財産は、遺言書の内容に限りません。被相続人(亡くなった人)が生前贈与をしていた場合その財産も含みます。

つまり、

【遺留分請求ができる財産の対象】

  • 遺言書により取得した財産
  • 生前贈与により取得した財産

つまり相続人に限らず、生前贈与で譲り受けた財産がある人も、相続人から遺留分請求を受ける可能性があります。

覚えておきましょう。

遺留分の対象となる財産

(※状況によって遺留分請求できる生前贈与の期間が変わります)

2.遺留分請求された場合の3つの心構え

前章では遺留分請求の6つの特性をお伝えしました。

そのうえで「もし遺留分請求を受けたら、どうしたらいいのか?」

実際そのときになって慌てないためにも、ここではその心構えを3つご紹介します。

2-1.遺留分請求の始まり|請求方法を知っておこう

遺留分の請求はどのような方法で始まるのか、事前に知っておくことで少しでも不安を和らげることができます。

遺留分の請求方法は、以下のように

  • 口頭
  • メール
  • 郵便

など様々です。

※なんとなくのイメージで、請求には裁判所が間に入る印象もあるかもしれませんが、実際はそのようなことはありません。
遺留分の侵害を受けている相続人から、遺留分を侵害している受遺者に対して、直接請求をします。

よって、請求する側と親しい関係であれば、まずは口頭で話を切り出されることもあるでしょう。

しかし一般的には、配達証明付きの内容証明郵便が送られてくる場合が多いようです。

なぜなら、遺留分侵害額請求には請求期限があります。

この配達証明郵便は、遺留分の請求をしたという確かな証拠になるからです。

そして、一般的な遺留分侵害額請求書はこのような文面で送られてきます。

内容証明郵便

2-2.万が一に備えて請求額程度の財産を残しておこう

遺言書(または生前贈与)で法定相続より有利に財産を受け取った人は、遺留分の請求を受ける可能性があります。

まずはそのことを認識し、万が一遺留分請求を受けることを想定し、財産を残しておくのがよいでしょう。

遺留分を請求されると、指定された期限内に振込等により金銭を渡すことが一般的です。

1-5でもお伝えした通り、最長10年経過するまではいつ遺留分請求されるかわかりません。

よって、遺留分を請求される事態を想定して、その金額分は手を付けずに残しておくことが大切です。

2-3.請求額を支払えない場合は裁判所に助けを求めよう

遺留分請求をされても期限までに支払えない場合は、家庭裁判所に助けを求めると、状況によって支払期限を延長してもらえる可能性があります。(判断は裁判所に委ねられます)

裁判所に助けを求める

よくあるのは、

  • 相続財産が不動産や車のみで、すぐに金銭に換えることができない
  • 預金が少なく、葬儀費用や相続税の支払いなどで現金が残らない

などの状況の場合です。

遺留分の支払い期限の延期は、法律では「相当の期限」を許与することができると定められていますが、実際、

  • どれぐらいの期間
  • どれぐらいの金額
  • 延長できるかどうか

いずれも、裁判所の裁量に委ねられています。

個々の状況によって裁判所の判断は変わるため、実際のところは行ってみないとわからない部分が多いようです。

【コラム】で触れている平成31(2019)年の民法の改正により、同年7月1日以降の相続発生について適用されます。
 ※つまり、それ以前の相続開始分については、裁判所は関与しないことになります。)

3.遺留分請求を避けるために事前にできること(※条件あり)

遺留分の請求を受けた場合、必ず支払い応じなければならない…
何か未然に防ぐ方法はないのか…?

そう考える人もいると思います。

その対策はかなり限られますが、ひとつ「遺言書の書き方を工夫してもらう」方法があります。

この方法が使えるのは、「受遺者が複数人いる場合」が前提になります。
(つまり、遺言書により財産を受け取る人が複数人いる場合に限ります。)

遺言書をこれから書く人や作成中の人に、「財産を受け取る人の懸念」を伝え、それを考慮した遺言にしてもらうことで、遺留分の侵害を少しでも軽減できる可能性があります。

具体的な方法を2つ紹介していきます。

3-1.遺留分について、誰の財産から先に支払うのか指定してもらう方法

遺留分対策で最も有効となるのが、「(遺留分の請求があった場合)誰の財産から先に支払うのかを指定してもらうこと」です。

遺言書により財産を受け取る人が複数いた場合、元々の法定相続割合の金額よりも多くもらう人が、遺留分を渡すことになります。

しかし、事前に誰の財産から先に支払うかを指定してもらうことで、自分に遺留分請求される額を減らす、あるいはなくすことができます。

遺言書に記載する例文としては、以下のようになります。

遺言書の例文

このように、遺言書内で遺留分について記載してもらうことで、請求額は以下のように変わります。

遺言内容に沿った遺留分請求

ぜひ参考にしてみてください。

3-2.付言事項(メッセージ)を残してもらう方法

遺言書には、「付言事項」を記すことができます。

「付言事項」とは、つまり“メッセージ”です。

遺言書の本文とは異なり法律上の効力はありませんが、一筆付け加えてもらうことで、遺言者の思いを伝えることができます。

特に、遺留分請求をしてほしくない場合などに、以下のように付言事項を添えることを遺言者に提案してみることもひとつの手段です。

付言事項

中には、遺言書で「なぜ自分だけ財産がもらえないのか」と理由がわからずに懐疑的になる人もいるかもしれません。

でもこのようにメッセージがあることで、遺言内容に納得し「遺留分の請求をしないでおこう」と良心的に理解してくれる場合も可能性としてはあると思います。
そのためにも、メッセージを残さないよりは残したほうがよいでしょう。

4.【コラム】遺留分に関する法改正の影響(平成31年7月1日)

遺留分に関する法律が、平成31(2019)年7月1日に変わりました。
(民法の法改正)

その影響で、遺留分について、

  1. 名称の変更
  2. 請求できる財産対象が、金銭に限定

と変更されました。

法改正の変更点

イラストで分かりやすく説明します。

法改正での変更点

法改正に伴い、亡くなった日が平成31年7月1日より前か後かで請求できる対象が変わります。

これは、相続は「亡くなった日時点」の状況が基準になるためです。

よって相続財産の状況はもちろん、法律についても同様に「亡くなった日時点」が基準となります。

詳しくは法務省のHPの【4.遺留分制度に関する見直し】をご覧ください。

5.まとめ

この記事でお伝えしたポイントをまとめると、以下の通りです。

  • 遺留分の請求には必ず応じる必要がある
  • 遺言者に書き方を提案することで、遺留分の支払額を最小限に抑えられる可能性がある
  • 亡くなった日によって、遺留分に関して適用される法律が異なる(改正の前後による)

遺留分の請求を受けてしまってからでは支払いに応じるほか対応がなく、対策のしようがありません。

そのため事前にできる対策として、相続について家族と共有しておくことや、遺言を遺すのであれば遺留分について話をし、それを考慮した内容を記してもらう必要があります。

書き方について悩まれる場合は、一度専門家に相談するとよいでしょう。

遺留分請求は、「知らなければ対応ができない」ものです。
(つまり、知っているからこそ対応ができます)

この記事を通して遺留分について正しく理解し、いざというときに役立てていただけると幸いです。

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